2026年10月施行 労働安全衛生法改正|個人ばく露測定は「誰が測るか」が変わる。研究室が今すべき準備
2026年10月1日、化学物質の「個人ばく露測定」を行える人が法律で決まります。新しい測定義務が増えるわけではありません。ただし、測る前に必要な「リスクアセスメント」が現場に定着していない。これが私たちのヒアリングで見えている実態です。専門用語を一つずつほどきながら、10月までに何をすべきかを整理します。
監修:水口裕尊(第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者、東京大学)
法律監修:河西 智之(弁護士)
この記事の結論
- 10月1日から、個人ばく露測定は「作業環境測定士」または「作業環境測定士の管理の下にある講習修了者」が行うことになる。測定そのものが新たに義務化されるのではなく、「測るなら誰が・どう測るか」が決まる
- 対象は大学の研究室だけでなく、企業の研究開発・分析・品質管理・製造部門など、化学物質を扱うすべての事業場。最初に必要なのは測定機器でも外注先でもなく、「どの作業を測るべきか」を特定できる記録
- 改正は2030年まで段階的に続く。単発で対応するより、記録の土台を整えるほうが結果的に安い
先に押さえる5つの言葉
リスクアセスメント:扱う化学物質の危険性を事業者自身が見積もり、対策を決める手続き。2016年から義務(安衛法第57条の3)
濃度基準値:国が物質ごとに定めた「労働者がばく露する空気中濃度の上限」。屋内作業場ではこれ以下に保つ義務がある(安衛則第577条の2)
ばく露推定:実測せず、取扱量や換気などの条件から「どのくらいばく露していそうか」を計算で見積もること。リスクアセスメントの一部
個人ばく露測定:労働者の襟元にサンプラーを付け、作業時間全体で実際にばく露した濃度を測ること。ばく露推定で「危なそう」と出た作業を確認するために行う(確認測定)
作業環境測定士:作業環境測定を行う国家資格者。10月からは個人ばく露測定もこの資格者(登録を受けた者)の仕事になる
2026年10月1日の労働安全衛生法改正で変わるのは、個人ばく露測定を「誰が測るか」です
2026年10月1日施行の改正で事業者に求められるのは、化学物質の個人ばく露測定を作業環境測定士または作業環境測定士の管理の下、所定の講習修了者に、作業環境測定基準に従って実施させることです。これまで測定の担い手に法律上の決まりはありませんでした。10月からは「資格を持つ人が、決められた方法で」測ることが条件になります。
3行で言うと
- 誰が:個人ばく露測定の登録を受けた作業環境測定士。講習を受けた補助者にサンプリングを任せることはできるが、その場合も管理する作業環境測定士が必要
- どう:国が定める「作業環境測定基準」に従って測る
- 自社でできなければ:登録・指定を受けた作業環境測定機関に委託する
根拠は、2025年5月14日公布の「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」(令和7年法律第33号)です。厚生労働省の改正法特設ページと、安全衛生情報センターの施行通達(基発0514第1号)が一次情報です。実施者の細かな要件は2026年6月の整備政令(令和8年政令第196号)、7月の整備省令(令和8年厚生労働省令第116号)・告示と通達(基発0730第2号)で定められました。
条文レベルで確認したい方へ(クリックで展開)
- 個人ばく露測定は作業環境測定法上の「作業環境測定」に位置付けられ(作環法第2条第3号)、新設の安衛法第65条の3の測定として扱われる。同条第1項(改善困難な第三管理区分作業場で呼吸用保護具を選定するための測定、その後6月以内ごとの定期測定、溶接ヒューム測定。安衛則第42条の5)には罰則あり(安衛法第119条第1号)。第2項は第三管理区分作業場の改善措置の効果を確認する測定(安衛則第42条の6)。第3項がリスクアセスメントに伴う測定(確認測定)
| 項目 | 実施者 |
|---|---|
| デザイン | 個人ばく露測定に係るデザイン及びサンプリングの登録を受けた作業環境測定士 |
| サンプリング | 個人ばく露測定に係るデザイン及びサンプリングの登録を受けた作業環境測定士、または、上記作業環境測定士管理の下、所定の講習を受けた補助者 |
| 分析 | 第1項:作業場の種類について登録を受けた第一種作業環境測定士/第3項:分析方法ごとに厚生労働大臣が定める要件を満たす者。いずれも一級化学分析技能士に補助させることができる(技能士試験科目に含まれる分析方法で、所属事業場で採取した試料に限る) |
- リスクアセスメントなどによる数理モデルによる濃度推定などは、同条の作業環境測定に含まれない。従来の実施者要件を定めた令和6年厚生労働省令第44号(有機則等一部改正省令)は、整備省令(令和8年厚生労働省令第116号)により2026年9月1日付で廃止
「10月から個人ばく露測定が全面義務化」ではない
「個人ばく露測定が全面義務化」という表現をよく見かけますが、正確ではありません。測定を行うかどうかはリスクアセスメントの結果で決まります。測る必要のない作業は、10月以降も測らなくてよい。変わるのは「測ると決めたときの担い手と方法」です。ただし、改善が困難な第三管理区分の作業場や溶接ヒュームなど一部の類型では、個人ばく露測定を有資格者に実施させること自体が事業者の義務とされ、罰則も付きます(詳細は上の折りたたみ)。リスクアセスメントの結果に応じて行う確認測定とは、この点で性質が異なります。
対象は研究室に限らない
安衛法の化学物質規制に、規模や業種による除外はありません。有機溶剤中毒予防規則は「試験又は研究の業務」を明示的に対象にしています(同規則第1条第1項第6号ル)。
| 部門 | 典型的な作業 | ポイント |
|---|---|---|
| 大学・公的研究機関の研究室 | 合成・抽出・洗浄での多種少量の溶剤 | 教職員・研究員が対象。学生は原則労働者に当たらないが(有給RA・TA等は例外あり)、同等の管理が望ましい |
| 企業の研究開発部門 | 合成・配合・評価試験、スケールアップ | パイロット設備は従来の作業環境測定の対象にもなり得る |
| 分析・品質管理部門 | HPLC・GC用溶媒、前処理用の酸・溶剤の反復使用 | 定型作業が多く、測定対象作業を特定しやすい |
| 製造・生産技術、病院の臨床検査 | 製造工程の溶剤・特化物、ホルムアルデヒド・キシレン | 従来の作業環境測定に加え、改善困難な第三管理区分は罰則付き測定の対象 |
留意点:有機則には少量使用の適用除外がありますが、濃度基準値の義務(安衛則第577条の2)に取扱量の下限はありません。試験・分析用試薬は「一般消費者向け製品」の除外に当たりません。
つまり10月施行分が問うのは、「自分の実験室のどの作業が測定の対象になり得るか」を答えられるか、という一点です。
「誰が測るか」が問題になったのは、リスクアセスメントの結果が法令遵守の根拠になったからです
2022〜2024年の「自律的管理」への転換で、国は化学物質の管理方法を事業者に委ねる代わりに、「濃度基準値以下に保つ」という結果責任を課しました。結果を示すのは事業者自身の測定です。測定が根拠になる以上、その信頼性が制度の弱点になる。10月施行分はこの弱点を塞ぐ改正です。
ばく露推定→確認測定の二段階
濃度基準値を守る手順は二段階です。いきなり測るのではなく、まず計算で見積もります。
- STEP 1|ばく露推定(リスクアセスメント):取扱量・換気・作業時間などの条件から、労働者がどのくらいばく露していそうかを見積もる。厚生労働省の無償ツールCREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)が標準的な手段
- STEP 2|確認測定(個人ばく露測定):推定値が八時間濃度基準値の2分の1程度を超えると評価された作業だけ、サンプラーを付けて実測し、濃度基準値と比べる。ここが10月から有資格者の仕事になる
推定値がその水準以下なら、確認測定は不要です(厚生労働省「濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」)。言い換えると、STEP 1ができていなければ、STEP 2が必要かどうかも判断できません。
作業環境測定との違い|「場の測定」と「人の測定」
「作業環境測定なら以前からやっている」という方も多いはずです。両者は目的が違います。
| 作業環境測定 | 個人ばく露測定 | |
|---|---|---|
| 何を測るか | 作業場の空気。定点で測る(A・B測定)か、作業者にサンプラーを付けて測る(C・D測定)。「場の測定」 | 労働者の呼吸域で、作業時間全体のばく露。「人の測定」 |
| 何と比べるか | 管理濃度。統計処理して作業場を管理区分に分ける | 濃度基準値。個人の結果をそのまま比べる(管理区分は付けない) |
| いつ行うか | 指定作業場で定期に | ばく露推定で必要と判断された作業に |
| 誰が測るか(10月以降) | 作業環境測定士(C・D測定は個人サンプリング法の登録を受けた測定士) | 個人ばく露測定の登録を受けた作業環境測定士(補助者は測定士の管理下) |
注:C・D測定(個人サンプリング法)と個人ばく露測定は、どちらも身体にサンプラーを付けますが、結果の評価方法と実施できる資格が異なります。改正後はいずれも作業環境測定法上の「作業環境測定」です。
現場では「測る前」で止まっている
私たちが電子実験ノートの開発に伴って大学・企業ラボに行っているヒアリングでは、研究室が最初につまずくのは測定技術でも費用でもなく、STEP 1のリスクアセスメントそのものが定着していないことだと一貫して見えています。
ヒアリングで見えていること
- リスクアセスメントを実施していない事業場が珍しくない。義務化から10年になりますが、「言葉は知っているが、うちではやっていない」「一度作った一覧表を更新していない」という回答が、大学・企業を問わず返ってきます。
- 「CREATE-SIMPLE」の名前を知らない担当者が多い。ばく露推定の標準ツールであるにもかかわらず、認知自体が進んでいません。
- 広がらない理由は、率直に言えば「手間がかかる」から。研究室では同じ研究者が日によって違う溶剤を、違う量で、違う時間扱います。作業ごとに条件を拾ってツールに入力し直すのは、研究と安全衛生を兼務する担当者には現実的でなく、「先月、誰がどの溶剤をどれだけ使ったか」は紙のノートに散らばったまま。測定機関に相談しても「対象作業を特定してください」の段階で止まります。
リスクアセスメント義務(安衛法第57条の3)自体には罰則がありません。これが「やらなくても差し当たり困らない」状態を長く許してきました(ただし、事故や健康障害が発生した際、リスクアセスメントが未実施であることは、安全配慮義務違反等の責任判断において不利に働くのみならず、行政指導や是正措置の対象となる可能性があります)。しかし濃度基準値を守る義務(安衛則第577条の2)は罰則付きで、10月以降は確認測定の担い手まで決まります。ばく露推定を飛ばしたままでは、法令を守っていることを根拠をもって示せません。
精度担保の改正が研究室に求めているのは、測定士を探すことの前に、ばく露推定ができる粒度で作業記録を持つことです。
改正法は5本柱・2030年までの段階施行。10月の個人ばく露測定はその一部です
令和7年法律第33号は5本の柱からなり、10月施行分は「化学物質による健康障害防止」の柱に属します。他の柱の施行日を知らないと、10月に対応した直後に2027年・2028年の義務が追いかけてきます。
| 柱 | 主な内容 | 主な施行日 |
|---|---|---|
| ① 個人事業者等の安全衛生対策 | 同じ場所で働くフリーランス・一人親方等を保護対象に。業務上災害の報告制度など | 2026-04-01/2027-01-01/2027-04-01 |
| ② メンタルヘルス対策 | 50人未満事業場にもストレスチェックを義務化 | 2028-04-01 |
| ③ 化学物質の健康障害防止 | 営業秘密成分の代替化学名通知、個人ばく露測定の精度担保、SDS通知義務違反への罰則 | 2026-04-01/2026-10-01/公布後5年以内 |
| ④ 機械等の労働災害防止 | 特定自主検査・技能講習の不正防止、製造許可・検査制度の見直し | 2026-01-01/2026-04-01 |
| ⑤ 高年齢労働者の災害防止 | 加齢に配慮した作業環境改善が努力義務に | 2026-04-01 |
出典:厚生労働省「改正法の概要」、安全衛生情報センター「法令改正一覧(令和7年)」。治療と仕事の両立支援(法令・告示上は「治療と就業の両立支援」)の努力義務化(2026年4月)は本改正法ではなく改正労働施策総合推進法によるものです。

実験現場に関係するのは③と①、そして2028年の②
まず「③ 化学物質の健康障害防止」が基本ですが、共同研究者や外部技術者等が実験室に出入りするなら「① 個人事業者等の安全衛生対策」も関係します。加えて、中小企業の研究開発部門の多くは50人未満の事業場に当たるため、2028年の「② メンタルヘルス対策」に関してストレスチェック義務化も他人事ではありません(大学は法人・キャンパス単位で事業場を判断するため、研究室単位で「50人未満」とはなりません)。
半世紀の流れで見ると、次に来るものが読める
労働安全衛生法は1972年の制定以来、3つの方向に広がり続けてきました。10月施行分は「管理手法の高度化」という方向性における現在地です。
- 方向1 対象の拡張:正社員 → 全労働者 → 派遣・請負 → 個人事業者・フリーランス(2026〜27年)
- 方向2 リスクの多様化:機械災害 → 化学物質(1977年〜) → 過重労働・メンタルヘルス → 加齢・熱中症(2025〜26年)
- 方向3 管理手法の高度化:国が決める個別規制 → リスクアセスメント(2016年義務化) → 自律的管理(2022〜24年) → 測定の質の担保(2026年)
方向3の到達点は、「規制を守っているか」から「守っていることを自分のデータで示せるか」への転換です。この先に予測される変化は3つあります。
- 「50人」の線引きの後退:ストレスチェックを皮切りに、50人基準の制度が小規模事業場に広がる可能性
- 記録の電子化が前提になる:労働者死傷病報告の電子申請義務化(2025年)、新規化学物質届出の電子化(2026年7月)に続く流れ
- 「使った記録」と「測った記録」の紐づけ:測定対象作業の特定、記録の保存(期間は物質・規則により3年・7年・30年等)、健診との突合。いずれも作業記録が土台
濃度基準値の設定物質は今後も追加されます(労働政策審議会安全衛生分科会で継続審議)。測定が必要になる作業は年を追って増える方向です。
要するに今後の改正は、紙とExcelに分散した記録を持つ研究室ほど負担が増え、電子的に紐づいた記録を持つ研究室ほど軽くなる方向に進みます。
10月までの準備は「測定」ではなく「記録」から始めるのが最短です
対応は3段階です。①記録からばく露推定を行い測るべき作業を特定する、②作業環境測定士または委託先を確保する、③測定結果を作業記録と紐づけて保存する。②と③は①ができていなければ着手できません。そして①は、実験記録の持ち方そのものの問題です。
10月までのチェックリスト
- 取扱物質の棚卸し:濃度基準値が設定されている物質を扱っているか。物質リストは厚生労働省の化学物質管理ページで確認
- 作業の特定とばく露推定:その物質を「誰が・どの実験で・どれくらいの量と時間」扱っているかを実際の作業記録から拾い出し、CREATE-SIMPLE等で推定して、濃度基準値超過のおそれがある作業を切り分ける
- 測定体制の確認:個人ばく露測定を行うなら、実施者が作業環境測定士(個人ばく露測定の登録を受けた者)または講習修了者か。講習修了者に測定させる場合も、補助者を管理する作業環境測定士が必要。委託なら、デザイン・サンプリング・分析に有資格者が配置されている作業環境測定機関か
- 化学物質管理者との連携:リスクアセスメント結果と測定計画の整合
- 記録の保存ルール:測定結果と作業記録・健診記録の紐づけと保存期間の明文化
- 予算化:測定コスト(物質数×対象者数)の次年度反映
電子実験ノート「Jikken Note」が担う工程
チェックリストの「2. 作業の特定とばく露推定」が、研究室で最も時間を取られる工程です。私たちが電子実験ノート「Jikken Note」で設計してきたのは、実験記録と使用試薬・物品の情報を一体で蓄積する仕組みです。研究者は紙のノートと同じ感覚で実験を記録し、「いつ・誰が・どの実験で・何を使ったか」がデータとして残ります。
化学物質のリスクアセスメントは「対象物質の洗い出し → 危険性の特定 → リスクの見積もり → 対策と記録・保存」の順に進みます。Jikken Noteの記録は最初の「洗い出し」と最後の「記録・保存」の土台になり、研究室中のノートをめくる棚卸しが検索1回に置き換わります。濃度基準値設定物質を検索すれば、その物質を扱った実験・研究者・時期が一覧になる。これがばく露推定の入力であり、測定士や測定機関に「この作業を測ってほしい」と依頼する出発点です。タイムスタンプ付きの記録は、「いつ評価し、いつ周知したか」という証跡の要件にも応えます。
開発の最終段階にある機能
さらに現在、実験記録に含まれる試薬の使用量・容器の開口条件・作業環境の条件から、ばく露濃度を数理モデルで推定し、濃度基準値と比較する機能を開発の最終段階まで進めています。出力されるのはリスクアセスメントの「見積もり」そのもの。ヒアリングで「手間がかかる」と敬遠されていた、作業条件を一件ずつ拾ってツールに入力し直す工程を、実験記録から直接立ち上げて省くのが狙いです。
この機能は確認測定の代わりではありません(数理モデルによる推定は、通達が安衛法第65条の3の測定に含まれないとする「簡易的・予備的な測定」の側です)。確認測定を要する作業とそうでない作業を切り分け、有資格者による測定を「本当に測るべき作業」に集中させるためのものです。
10月施行への最短ルートは、測定を外注する前に「測るべき作業を記録から言える状態」をつくることです。電子実験ノートはその状態をつくる基盤です。
「測定は外注するから記録は関係ない」という判断が、いちばん高くつきます
導入判断が止まる典型的な懸念は4つあります。いずれも、記録の整備を後回しにするほど対応コストが増える構造です。
「測定は測定機関に任せるので、社内の記録は今のままでよいのでは」
測定機関は測定のプロですが、貴社のどの作業が対象かは知りません。対象作業の特定は依頼側の仕事で、ここが曖昧だと「全作業を測る」か「測定漏れが残る」かの二択になります。前者は費用が跳ね上がり、後者は「測定結果を根拠にした管理」が成立しません。記録は、測定を外注するためにこそ必要です。
「うちは小規模ラボなので、対象外では」
10月施行分に規模や業種の線引きはありません。個人ばく露測定を行うなら、規模を問わず有資格者要件の対象となります。むしろ小規模ほど担当者一人が安全衛生と研究を兼務しており、ばく露推定に必要な記録を探す時間の削減が、そのまま研究時間に返ってきます。
「リスクアセスメントは研究の自由を縛るのでは」
リスクアセスメントは研究を止める手続きではなく、実験を安全に続けるための思考の土台です。別稿「研究の自由を守る化学物質リスクアセスメント」で詳しく述べています。「測るべき作業を根拠をもって決められる」状態は、測定コストを抑えつつ研究を止めない条件でもあります。
「ベテラン研究者が新しいツールを嫌がる」
開発現場で最も多く聞く懸念です。Jikken Noteが「紙のノートの書き味を残す」設計を採っているのはこのためで、研究者側の作業は紙と変わらず、データ化・検索・証跡は管理側で機能します。現場に新しい入力業務を増やさないことが定着の条件だと考えています。
決裁者に説明するための材料
- 法的根拠:令和7年法律第33号(2026年10月1日施行分)、労働安全衛生規則第577条の2(濃度基準値)
- 費用の考え方:測定費は「物質数×対象者数」で増える。対象作業を絞り込める記録があれば、測定範囲の最適化がそのまま費用の最適化になる
- 継続性:2027年・2028年・2030年の施行が続くため、単発対応ではなく記録基盤への投資として説明できる
- 証跡:タイムスタンプ付き記録は、監査・査察時の「いつ評価し周知したか」の説明に使える
まずは自社の研究室の記録が「測るべき作業を特定できる状態」にあるか、実験記録を数件入れて確かめてみてください。無料トライアルは3分で始められます。
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改正法対応の新機能(ばく露推定)は、機能一覧およびお知らせで開発状況を順次ご案内します。関連コラムはリスクアセスメントカテゴリをご覧ください。
よくある質問
Q. 2026年10月1日に労働安全衛生法で何が変わりますか?
化学物質の個人ばく露測定を、作業環境測定士または作業環境測定士の管理の下にある所定の講習修了者が、作業環境測定基準に従って実施することが求められます。自社で実施できない場合は登録を受けた作業環境測定機関に委託します。測定義務そのものの新設ではなく、従来の測定の位置付け直しですが、第三管理区分作業場や溶接ヒュームの測定は有資格者による実施が義務付けられ、罰則も適用されます。
Q. 個人ばく露測定と作業環境測定はどう違いますか?
作業環境測定は、作業場の空気を定点で測る(A・B測定)または作業者にサンプラーを付けて測る(C・D測定)「場の測定」、個人ばく露測定は労働者の呼吸域で作業時間全体のばく露を測る「人の測定」です。前者は管理濃度、後者は濃度基準値で評価します。改正後は個人ばく露測定も作業環境測定法上の作業環境測定に位置付けられますが、評価の枠組みはこのように異なります。
Q. 個人ばく露測定と個人サンプリング法はどう違いますか?
個人サンプリング法(C・D測定)は結果を統計処理して管理濃度と比較し、作業環境を管理区分で評価します。個人サンプリング法の登録を受けた作業環境測定士でなければ実施できません。個人ばく露測定はリスクアセスメントの確認測定で、管理区分判定を行わず個人の測定結果を濃度基準値と比較します。
Q. 個人ばく露測定は必ず行う必要がありますか?
いいえ。リスクアセスメントでばく露濃度を推定し、八時間濃度基準値の2分の1程度を超えると評価された場合に確認測定として行います。それ以下であれば要しません。ただし第三管理区分の作業場や溶接ヒューム測定など、罰則付きで義務付けられる類型があります。
Q. 大学の研究室や少人数のR&D部門、分析・品質管理部門も対象ですか?
はい。安衛法の化学物質規制に規模・業種による除外はなく、リスクアセスメント対象物を扱う研究室、研究開発、分析、品質管理、製造、臨床検査などの部門はすべて対象です。個人ばく露測定を行う場合は規模や業種を問わず有資格者要件の対象となります。大学では雇用関係にある教職員・研究員等が保護対象で、学生は原則として労働者に該当しませんが(有給のRA・TAなど雇用関係の実態があれば労働者性が認められる場合があります)、同等の管理が実務上望ましいとされます。
Q. 電子実験ノートは個人ばく露測定の代わりになりますか?
なりません。電子実験ノートが担うのは、ばく露推定による測定要否の切り分け、測定対象作業の特定、記録・保存、測定結果と作業記録の紐づけです。確認測定自体は有資格者要件を満たす体制で行う必要があります。
Q. リスクアセスメントをまだ行っていない場合、10月までに何をすべきですか?
まず取扱物質の棚卸しと、濃度基準値設定物質を「誰が・どの作業で・どれだけ」扱っているかの記録整備から始めてください。リスクアセスメント義務自体に罰則はありませんが、濃度基準値を守る義務は罰則付きで、ばく露推定がなければ確認測定の要否も判断できません。ばく露推定には厚生労働省の無償ツールCREATE-SIMPLEが利用できます。
Q. CREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)とは何ですか?
厚生労働省が「職場のあんぜんサイト」で無償公開している化学物質のリスクアセスメント支援ツールです(2026年9月時点 Ver.3.2.1。最新版は職場のあんぜんサイトで要確認)。取扱量・換気条件・作業時間・頻度などを選択式で入力すると、ばく露濃度を推定し、濃度基準値等と比較してリスクレベルを判定します。私たちのヒアリングでは、この名称自体を知らない安全衛生担当者が多いのが実情です。
参考資料
- 厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)」特設ページ
- 安全衛生情報センター「施行通達(基発0514第1号)」
- 厚生労働省「通達(基発0730第2号)」
- 厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」
- 鳥取労働局「個人ばく露測定について」
- 職場のあんぜんサイト「CREATE-SIMPLE」
- 厚生労働省「濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」
- 安全衛生情報センター「法令改正一覧(令和7年)」
- 厚生労働省「化学物質管理ページ」
本記事は2026年9月時点の公開情報に基づいています。省令・告示の詳細や運用は変更される可能性があるため、実務対応にあたっては最新の厚生労働省資料および所轄労働基準監督署・専門家にご確認ください。Jikken Noteの開発中機能に関する記述は、提供時期・内容が変更される場合があります。

